【Auricula】オーリキュラとは
 
オーリキュラは、イギリスを代表するといわれるほどの園芸品種でありながら日本ではまだまだ馴染みの薄い植物です。

オーリキュラとはどういう植物なのか」ということを、一般の園芸愛好家に理解してもらうのは、かなり困難であると北海道の山野草ナーサリー「アルム」の丹さんも痛感しておられます。

丹さん宛には、オーリキュラに関するいろいろな質問が大量に寄せられる為、それに対応するよう丹さんが雛型としてまとめられた文章がありますので、是非ご一読ください。

『2003.3.17 Green ML [G-Life:15875] オウリキュラについて( 長文)  より転載』
たん@札幌さん著


「この植物は、10年前であれば、話題になることも無かった園芸植物でしたが、その後、一般の人たちが興味を持つようになったのは、やはり園芸メディアが紹介したからだと思います。それ自体は結構なことなのですが、多くは写真だけ載せて、内容は無いに等しいものでした。
中にはオウリキュラの範疇に入らないPrimula × pubescensの写真を、オウリキュラとして掲載していることもあります。その結果なのか、園芸店によってはPrimula × pubescensを、オウリキュラとして売っていることもあるようで、問い合わせメールに「愛培のオウリキュラの写真」が添付してあるのを開いてみると、大抵は典型的な
Primula × pubescensです。

Primula × pubescens プリムラ・プベスケンス(異名プリムラ・ヘルベチカ)は、欧州アルプスなどに分布のPrimula auricula(原種) とP. hirsutaとの交雑種で、分布が重なるところでは稀に自然交雑個体が見られます。
Primula auricula

アルプス、アペニン、カルパチア山脈などの石灰岩地に分布。
黄色の花で白い目があります。
複数の変種、亜種がありますが、G. K. Fendersonの「THE GENUS PRIMULA」ではauriculaに統一してしまっています。

原種の入手は、意外に困難でして、かつて海外の会の交換種子、種子商から入手したものは交雑していました。
ときおりこちらでも話題が出るChiltern Seedでは、たぶん本物らしきものが入手できます。これも変異の幅がある植物ですので、全体にバランスの良い個体はなかなか無くて、現在、比較的小型で端正なPrimula auricula ssp. albocinctaを育てています。
園芸種のショウオウリキュラのなかにも、原種と大差ないイエローセルフがあるほどで、市販品にPrimula auriculaの名で黄色の花があっても原種と思い込むのは早計です。
P. hirsuta

アルプスと中部ピレネーの石灰岩地に自生。花は淡いピンク〜ローズ。中心に円形の白い目がある)プリムラマニアの間で、俗にスターアイと呼ぶ星型の目の個体もあります。丈7〜8センチの小型種です

人為的に交配すると、より変異に富む個体が得られることから、英国では産業革命のころから栽培交配(育種)が盛んになりました。その中で、この花の育種に熱心だった職工を中心としたフローリスト達(園芸家)が決めた「園芸上の約束ごと」にマッチする個体だけがオウリキュラ(原種と区別してAuriculaと大文字で書き始める)として認められるようになりました。
花が円形に近く花弁がフラットで波打たないこと、花弁の切れ込みが少ないこと、中心円環が円形で歪みが無いこと、短花柱花(雌しべが見えない)であること、etc、と細かい約束事があって、それに合わない個体はオウリキュラに含まれない、つまりプベスケンスになるわけですが、日本では売る方も買う方も知識が無いので、プベスケンスをオウリキュラとして売っても通用してしまうのでしょう。

日本にも似た例はあります。ネジバナの芸が見られる個体群を小町蘭と呼んで、標準的な個体と区別したり、富貴蘭と呼ぶのはフウランだったと思います。

この約束事は、オウリキュラが誕生したころには比較的緩やかであったので、100年以上前に誕生したボーダー系の古い品種ではプベスケンスに近い品種もあります。しかし、ボーダーにもそれなりの約束が当てはまるので、日本でガーデンオウリキュラとして売っているものとは異なります。しかし、プベスケンスが園芸的にも鑑賞的にも劣るわけではありません。単に美意識の問題で分けられただけで、分類上はオウリキュラもPrimula × pubescensとして記載されます。

アルムのHPのギャラリー「サクラソウ科2」のプベスケンスを見てください。良い品種が沢山有ります。
Primulaceaeオウリキュラ 1
Primulaceaeオウリキュラ 2
Primulaceaeオウリキュラ 3
Primulaceaeオウリキュラ 4
Primulaceaeオウリキュラ 5

ついでに書きますと、箱入り娘的に育種されてきたオウリキュラと、庭植えを前提に育種されてきたプベスケンスとでは、強健性に大きな差があります。適地適作という考え方で見ると、日本の気候ではオウリキュラは不向きな園芸植物といえます。これを作りこなすには、高山植物栽培のノウハウが必要で、栽培用土も高山植物用の砂質用土が理想的です。とにかく一部のボーダー系以外は性質が弱く、かなり手が掛かるものです。園芸出版メディアは、そうした知識も、しっかりと伝えて欲しいものです。
私のところは商業ナーセリーなので、注文が有ればどこへでも送りますが、関東以南からの注文では、送るときに心が痛みます。本来は、非常に長命な植物なのですが、行った先で、最初の夏を生き延びることができるかどうか危ぶむからです。
雑誌ビズも4月号で取り上げたいと電話取材があり、写真を貸しました。今日、その掲載誌が届きました。栽培が難しいこと、高山性プリムラ栽培の経験が無い人は、安易に欲しがるべきではないことを強調しておいたのですが、まあまあの内容でした。しかし、やはり説明が充分でないという感があります。



丹さんのお話を私なりにまとめてみます。

私たち、素人の園芸家で丹さんがおっしゃるところの正統派「オーリキュラ」というものを持ってる方は、ほとんどいらっしゃらないと思います。
私たちがホームセンターや町の園芸店で手に入れ「オーリキュラ」と呼んでいるものは、実は「プリムラ・プベスケンス(通称プベスケンス)」というものなのです。
「プベスケンス」という名前がほとんど知られていない事や、私たちが知識がないために、最初に耳にした「オーリキュラ」とみんなが呼んでいますが、実はそれらは「オーリキュラ」とは呼べません。

「オーリキュラ」と呼べるものは
「原種=Primula auricula」と、
Primula × pubescens の中の形質の優れたものが選抜されて、園芸的に「Primula Auricula」(園芸品種なので大文字表記)と呼ばれているもののみを指していいます。

クリスマスローズもそうですが、「プベスケンス」は交配を重ねて作られたお花なのでなかなか固定されたお花が咲かないのです。株分けや、挿し芽など栄養繁殖でのみ増やすことができるといっても過言ではないかもしれません。実生では色や形に大きな幅ができてしまうのです。

普通の園芸店に売っている「プベスケンス」には銘品はありません。
銘品というのはアルムなどで売っている「
Auricula 'Old Irish Blue' 」といった名前のついている品種です。お値段も数千円〜します。

*円形に近く花弁がフラットで波打たないこと
花弁のゆがみは禁物で、幾何学的に美しい均整が重要とされています。


*花弁の切れ込みが少ないこと
*短花柱花(雌しべが見えない)であること
サクラソウ属植物の花はほとんどが長花柱(めしべが長くおしべが短い花)、短花柱(めしべが短くおしべが長い花)に二型花ですが、オーリキュラの世界では短花柱のみが評価されるのです。




*花弁の隙間が無く、中心円環が円形で歪みが無いこと
中心円環(白や黄色の部分)が正確な円であり、花弁との境界が明確でぼやけずにはっきりと際立っているものがよいとされます。



*花弁数が6枚以上あること
サクラソウ属の花は通常5枚ですが、円環形を理想とするオーリキュラは6枚以上が望ましいとされています。



*エッジの部分が大きい
*粉が充分に分泌されていること
etc...

など、コンテストの際にもポイントとされる約束事をクリアした「プベスケンス」だけが
「オーリキュラ」と呼ぶことができるのです。いわゆる銘品の株です。

ただし、ダブル(八重)については、特に約束は無いようです。花弁多く密なスタンダードと、やや少ないクラシックに分けられているだけです。現在の殆どの品種はルーツがアメリカなので、このあたりは大雑把なのではないか、ということです。

普通の園芸店には銘品にまさるとも劣らないような、素敵なお花も売っているのですが、やっぱりそれは名前のない「プベスケンス」です。しかし、銘品ではないからといって、そのお花が価値がないとかそういうことは全くありません。きれいなお花をお手ごろな価格で楽しめるということがいいのです。
銘品に比べて、実に強健なところもいいです。

**結論として**
「オーリキュラ」も「プベスケンス」も、すべて分類的にはPrimula × pubescens であり
その中の形質の優れたものが選抜されて、園芸的にPrimula Auricula(園芸品種なので大文字表記)と呼ばれて栽培されている。

つまり銘品は「オーリキュラ」
HCなどで売っているものは「プベスケンス」と理解されてよいと思われます。

また「ガーデンオーリキュラ」というのは庭植えを前提として作られた種類なのでボーダーオーリキュラなどもその中に含まれます